『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は水木しげる100周年記念事業のひとつとして企画され、2024年に公開されたアニメ映画です。鬼太郎の父と水木という男を中心にしたオリジナルストーリーとなっており、ゲゲゲの鬼太郎の雰囲気を踏襲しながら、人間のおぞましさや辛い展開などを描いた大人向けの作品になっています。
本記事では『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のネタバレ込みで感想や考察をしています。配信サービスも紹介しているため、視聴したいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
※ネタバレを含みますので、未視聴でネタバレを避けたい方はご注意ください。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の基本情報
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は水木しげる氏の代表作『ゲゲゲの鬼太郎』を原作とした、2023年11月に公開されたアニメ映画です。
鬼太郎の誕生を描いた『墓場鬼太郎』をベースにした映画のオリジナルストーリーとなっており、鬼太郎の父や鬼太郎の養父となる水木という人物を中心に物語が展開されています。
本作は、水木しげる生誕100周年の記念事業のひとつとして企画された映画です。公開時にSNS上で話題になり、11週連続でトップ10入りを果たすなど大ヒットしました。
2024年10月には300以上のカットをリテイクし、R15+指定で『真生版』が公開されています。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のあらすじ
時代は昭和31年、日本が戦後の復興を遂げるなか、龍賀製薬を経営し、日本の財政界を牛耳っていた龍賀一族の当主龍賀時貞が死去することから物語は始まります。
帝国血液銀行に勤め、龍賀製薬を担当していた水木は、当主候補と目されていた龍賀克典と懇意にしており、葬儀のため龍賀一族が暮らす哭倉村へ向かいました。
水木の予想に反し、時貞の遺言では克典ではなく長男の時麿を当主に指名。しかし、その時麿は翌朝何者かによって殺害されてしまいます。そこで水木は、時麿殺しの容疑をかけられた謎の男(ゲゲ郎)と出会います。
行方不明となった妻を探し村を訪れたゲゲ郎、哭倉村で続く龍賀家の者が次々と惨殺される事件––––さまざまな出来事が絡み合い、やがて水木とゲゲ郎はあるおぞましい真実を知ることになります。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の登場人物
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の主な登場人物は以下のとおりです。
水木 (木内秀信) |
本作の主人公。戦時中は玉砕命令を受けながら生き残り、戦後は帝国血液銀行で働いている。 |
ゲゲ郎 (関俊彦) |
もう一人の主人公。幽霊族の末裔で行方不明の妻を探している。 |
龍賀沙代 (種﨑敦美) |
龍賀乙米の娘。閉鎖的な哭倉村から出たいと考えており、村や龍賀製薬の秘密を探る水木に協力する。 |
龍賀克典 (山路和弘) |
龍賀製薬社長。龍賀乙米の婿で龍賀家の婿養子。水木のことを気に入っている。 |
龍賀時貞 (白鳥哲) |
龍賀一族の当主。物語序盤で死去。子どもには時麿、孝三、乙米、丙江、庚子がいる。 |
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の感想・考察
ここからはネタバレ込みで『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の感想と考察です。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
因習はびこる「哭倉村」
水木が訪れた哭倉村は、龍賀一族が牛耳る、外界と隔絶された村です。
作中では家父長制が色濃く残る龍賀一族の姿が克明に描かれています。当主は絶対であり、誰も当主に逆らえない。自ら従うもの、内心では反発心を持つもの、それぞれの思惑が渦巻いています。
物語が進むにつれて、歪な龍賀一族の姿と一族の残酷な行いが判明していきます。とくに印象的だったのが、沙代への仕打ちです。家長による性的な搾取や虐待はおぞましく、非常に不快になるものです。
沙代は可愛らしくも常にどこか危うい雰囲気があります。それは一族の仕打ちによって心に深い憎しみや悲しみを抱えていたからなのでしょう。最期に水木に救いを求める姿は心が苦しくなるほど切実で、絶望に溢れており、とても印象的です。
見えないけれど”いる”ものたち
鬼太郎作品らしく、作中には河童やつるべ火などさまざまな妖怪が登場します。幽霊族のゲゲ朗ももちろん妖怪。鬼太郎シリーズではおなじみのねずみ男も、シリーズより幼い姿で登場します。
水木は哭倉村でゲゲ郎と関わるうちに、妖怪が見えるようになります。時代の流れのなか、誰もが忘れてしまった妖怪の存在に気づき、哭倉村で起こる事件の真相にも気づきます。
物語のカギを握る妖怪のひとつが狂骨です。龍賀一族の行いにより幽霊族の怨念により生まれた狂骨は、裏鬼道によって操られ、同じ幽霊族のゲゲ郎と対峙します。
実際は人の行いによるものを、神隠しや幽霊などの見えないもののせいにしている話はいくらでもあります。
人間にとって都合の悪いことの責任を、見えないものへ押しつけてきたこと。こうした責任転嫁は、現代においてもさまざまな場面で起こっていることを表しているように感じました。
龍賀製薬の秘薬「M」
水木が哭倉村を訪れる理由のひとつである、龍賀製薬の秘薬「M」。その正体は幽霊族の血を精製したものでした。
龍賀一族は裏鬼道とよばれる術士たちを使い、幽霊族を捕らえて血を奪い続けていたのです。村長の長田も、裏鬼道の術士たちをまとめ、龍賀一族に献身的に仕えている一員です。
さらに、村人たちはMを精製するために必要な死人をつくるための人間をさらい、世話をする役目を担っていました。村ぐるみでMを作っていたのです。
この真実が明かされることで、自分たちが富を得るために、幽霊族や一族以外の人間を徹底的に搾取する龍賀一族のおぞましさが際立ちます。
搾取するものと搾取されるもの
幽霊族から血を奪う龍賀一族や、水木の会社の上司や元上官たち。搾取する側の人間は、搾取する対象を道具としか考えていない姿が描かれます。
幽霊族や沙代が理不尽に搾取される姿は、戦場で上官の理不尽な暴力や命令にあい、戦後も理不尽な目に会い続けた水木の過去と重なります。
水木は上司や龍賀一族たちの理不尽に対して内心では反発しながら、表向きは従う姿勢を見せていました。その水木が最後は乙米や長田、そして時貞へ真っ向から刃向かいます。
これは、水木がゲゲ郎と関わるなかで心理的な変化があったということと、龍賀一族の行いが水木の許容範囲を超えたということが関係しているのではと感じました。
水木は、野心的で、のし上がるために誰かを蹴落とし搾取する側になったこともあったのでしょう。一方で、ゲゲ郎を助けたり沙代を利用することを躊躇ったりと、他者を切り捨てきれない側面も持っています。
終盤の「ツケは払わなきゃなぁ!」という水木のセリフは、龍賀一族や村が搾取し続けた結果の後始末は自分たちでしろよという意味だろうと解釈しています。搾取するばかりの会社の上司やかつての上官、そして、のし上がるために狂骨に取り憑かれた沙代を救えなかった自分にも向けられていたのでしょう。
自分たちの行いの結果は、自分たちでけじめをつける。それが水木の出した答えだったのだろうと思います。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』感想余談
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は映画のオリジナルストーリーですが、幽霊族や鬼太郎の誕生に関する話は紙芝居や貸本など複数の媒体で発表されています。
2024年に水木しげる記念館を訪れる機会があり、企画展「鬼太郎の誕生—生まれかわる四つの物語—」の展示を見ることができました。鬼太郎の誕生に関する4つの物語について、実際に各媒体に掲載された漫画の原画などが見られます。
この物語には鬼太郎の両親や水木が描かれていますが、出会いや各キャラクターの性格などの設定は映画とけっこう違っています。鬼太郎の誕生や鬼太郎の父、水木という人物たちを水木先生がどのように描いたのかを比較でき、映画との共通点や異なる設定を探しながら見るのもおすすめです。
企画展は2025年4月6日まで行っているため、機会があればぜひ水木しげる記念館にも足を運んでみてください。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を視聴できる配信サービス
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を視聴できる主な配信サービスは以下のとおりです。
サービス名 | 配信状況 | 料金(月額・税込) | 無料トライアル期間 |
Amazonプライムビデオ | 見放題配信 | 600円 | 30日間 |
U-NEXT | 見放題配信 | 2,189円 | 31日間 |
Hulu | 見放題配信 | 1,026円 | なし |
Netflix | 見放題配信 | 790円〜 | なし |
DMM TV | 見放題配信 | 550円 | 14日間 |
J:COM STREAM | 見放題配信 | 1,100円 | 3日間 |
dアニメストア | 見放題配信 | 550円 | 31日間 |
Lemino | 見放題配信 | 990円 | 31日間 |
楽天TV | レンタル配信 | 登録無料 | なし |
多くの配信サービスで見放題配信されています。ぜひお好きな配信サービスで見てみてください!
なお、『真生版』はまだどの配信サービスでも配信されていないようです。
『真生版』は『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の豪華版Blu-ray・DVDに収録されています。豪華版Blu-rayまたはDVDを購入し、無印と『真生版』を見比べてみるのも面白いでしょう。
まとめ
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズの雰囲気を踏襲しながら、鬼太郎の誕生にまつわる悲劇をオリジナルストーリーで描いた作品です。戦後間もない時代の今と異なる倫理観や龍賀一族のおぞましさ、身勝手さは強い不快感を覚えるものながら、どこか現代に通じるところもあります。
子どもも楽しめるように作られながら、大人が見ても楽しめる映画です。さまざまな配信サービスで視聴できるため、ぜひ視聴してみてください!